夜が静寂を取り戻す頃

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【読書】 帰ってきたヒトラー - ティムール・ヴィルメシュ / 河出文庫

帰ってきたヒトラー 上

帰ってきたヒトラー 上

帰ってきたヒトラー 下

帰ってきたヒトラー 下

タイトルの通り、現代にヒトラーが蘇り、周囲の勘違いによってコメディアンとして有名になる話。卓越した使命感をもった彼が、現代ドイツを激烈に批判する様子は痛快。ばかげたテレビ番組、多機能過ぎてわけが分からなくなった携帯電話(スマートフォン)への批判など、納得させられる部分も多い。

作中でヒトラーは冷酷な独裁者としてではなく、親しみやすい人物としてユーモラスに描かれる点もまた、ヒトラーが拒絶されている現代ドイツへの挑戦となっているらしい。

表紙が秀逸に思われる。また、下巻巻末の解説が的確で秀逸だった。

実際に『我が闘争』の語り口を見ると、逆に『帰ってきたヒトラー』のモノローグ展開の凄さ、リアルさがよくわかる。両者はよく似ている、しかし単に形式的に似せているのではない。周囲の森羅万象を、オレ的な文脈で徹底的に再解釈しつくす。そして言語的に定義する。すると周囲に一種の擬似世界が生じる、というヒトラーの「根本原理」が、昨秋で見事に機能しているのだ。
(中略)
オレには世界がそのようなシステムとして見えるから仕方ないでしょ、という首尾一貫した観点のことで、だからこそ強靭なのだ。